運動学習


以前に勉強会を行ったときにまとめた内容です。
少々古いものですが運動学習理論の進化の過程も示しているので一定の役には立ちます。興味がある人はさらに最新の理論を学ばれるといいでしょう。



運動学習


・練習や経験に基づく一連の過程であり、結果として技能的行動を行いうる能力の比較的永続的な変化をもたらすもの。

・発達や成熟などのよる行動の変化は除外される。

・運動学習は技能的行動に関する「能力」を獲得する過程である。

・「能力」というのは概念であり直接見ることができない

→学習の結果として生じる行動の変化を測定の指標にする(心理学的方法)


運動学習の主要な測定の指標は運動反応の正確性、つまり誤差を示すスコアである。

・離散的運動課題:運動に開始と終わりがあり比較的短時間で行われ、結果を1つのスコアで表すことができる。(握力計を50%の力で握るなど)

・連続的運動課題:動き続ける標的を追跡させるトラッキング課題など。


学習の形成度

・学習曲線:古くから学習の指標とされてきた。横軸に練習試行、縦軸に誤差のスコアをとり練習中の誤差の変化を示したグラフ。

→しかし学習者の疲労、指導者からの助言や動機付けなど練習中にしか存在しない要因が影響する可能性がある

・トランスファー・デザイン:プレテスト、練習試行群、ポストテストの3つの部分から構成される。

・プレテスト;学習者が成人の場合まったく新奇の運動はほとんどなく、過去に経験した運動を応用して行われる。そこで学習前に運動の正確性を確認するために行う。

・練習試行群;実験操作の対象となる部分で、ここで学習の形成に影響を及ぼすと考えられる要因(試行回数、フィードバックの与え方、練習の順序など)が実験者の意図により操作される。従来学習曲線と呼ばれたものはこの練習試行群での行動の変化だがここではパフォーマンス曲線と呼ばれ純粋な学習の指標とはならない。

・ポストテスト;練習後10数分程度の休止後に実施される短期保持テスト、24時間以上後に行われる遅延テストがある。遅延テストはさらに練習と同じ課題を行う保持テスト、異なる課題を行う転移テストに区別できる。


新しい理論

行動に関するストラテジの学習であるのと同等に知覚に関する新たなストラテジの学習も含み、知覚・認知・行動の相互作用から運動学習が形成される。




アダムスの閉ループ理論

 単純な自己ペースの運動を行うとき、動作方向と動作展開の限度が決定されなければならず、その時に参考にするのが過去の動作の記憶であり、それを知覚痕跡と呼んだ。

  動作の開始にはもう1つ別の記憶が必要とされた。これは記憶痕跡と呼ばれ、反応を選択し開始する機能のみを持っている。動作はこれによって開始され、四肢の動きや状況の変化を知覚痕跡にフィードバックしながら調整が進行し、目的の方向に目的の範囲だけ四肢が動いて動作が完了される。記憶痕跡によって開始された動作は、知覚痕跡にフィードバックされながら遂行される。

  よってこの理論においては運動スキルの再教育には患者ができるだけ正確な動きをより長い時間費やすことが良い学習に必要ということになる。


この理論に対する批判

動物や人間は感覚のフィードバックがなくても運動が出来る。

→求心路の遮断後にも特定のタイプの学習能力を持つ

記憶容量の問題

→それまでに行ったすべての動きのために個別の知覚痕跡を蓄えておくことが不可能

新奇性の問題

→記憶痕跡や知覚痕跡が形成されていないので動作を行えない。

KRなしでも学習は促進される

→この理論では過去の記憶と行った運動の誤差は検出されるが目標動作との誤差は検出できずKRなしでは学習が促進されないことになる。



情報処理理論

 実験的にある運動課題を学習させる場合、学習者を取り巻く環境にはさまざまな情報が存在している。環境要因など運動開始以前から利用可能な情報と運動中あるいは運動の結果として利用可能になる情報がある。後者は運動に伴う感覚フィードバックと指導者から意図的に与えられる情報に分けられる。その代表的なものがKRknowledgeof result)である。

  • KR:学習者の練習中のパフォーマンスと学習レベルを変化させる比較的永続的な作用を併せ持つとされる。


スキーマ理論

 Schmidtにより打ち立てられた概念。スキーマとは知識や活動の枠組みで、特性を抽象化した概念であり具体的にはさまざまな表現をとるが機能的には同じとみなせるまとまり。知覚においては「犬」という概念が今までに経験した視覚刺激の総体ではなく抽象的な何かであるということ。

→なぜなら新しく見た犬は過去に経験されていないが犬とわかる

Schmidtは同じようなことが運動を遂行する場合にも言えると考えた。

→同じ人がざまざまな部位で文字を書いても似たようなものになる。ある動作について動作を速くしたり遅くしたりすると、各部分の比率が保たれる。

スキーマ理論では4つの要素が記憶されると仮定する。

①初期状態:身体の状態と環境の状態が含まれる。

②反応の特異化:人間は記憶としてあらかじめ蓄えられている運動プログラムによって運動を開始すると考えられるが、個々の運動に1対1対応した個別プログラムではなく一般化したプログラム(GMPgeneralized motor program)であると考える。実際の運動遂行に当たっては速度、強度などのパラメーターの決定が必要。

③運動に伴って生じる一連の感覚:運動に伴う固有受容器、外受容器からの感覚の情報を記憶する。

④運動の帰結:KRや遂行者自身が知りえた結果を記憶する。


再生スキーマ:過去に行った運動の結果とそのときに用いた反応の特異化(パラメーターの決定)の関係である。

再認スキーマ:過去に行った運動の結果とそのときに生じた一連の感覚の関係である。現在進行中の動作の制御よりも学習のために使われる。



生態学的アプローチ

 このアプローチでは中枢による制御という前提を放棄する。何が運動を制御するのかというと中枢神経も、下位レベルの神経系も、末梢運動器も環境もそれぞれに自己組織化されたシステムでありそれらが相互に作用し合って運動が引き起こされると考えられる。

 生態学的アプローチでは知覚と運動が本質的には分けられない一体のものだと考える。

→よって運動学習は課題とそれを遂行する環境の制約に応じた知覚―行動の協応性を増すことであると考える。最適なストラテジを検索するためには最適な知覚的手がかりと最適な運動反応が発見されなければならない。


Bernstein問題

→システム理論も、生態学的アプローチもBernstein問題への1つの解法である。

①自由度の問題:ある運動を考えたとき、たとえば目標へのリーチを考えても無数の組み合わせがある。

②文脈の多義性の問題:運動は瞬間で終了せず、ある程度の時間の幅を持っている。したがってその瞬間の前後の状況判断が必要となる。



各理論の臨床適応

たとえば患者がグラスを持ち上げるような新しい運動スキルを学ぶとき、各理論に従ったアプローチがどのようなものになるかを挙げる。

・閉ループ理論

グラスという到達点に対して正確な同じ動きを反復して練習する、そしてその可能な限り正確な動きをできるだけ長い時間行う。つまりは目標の「正しい」動作は1つに決められる。

・システム理論

より多くの条件化で練習を行う。グラスの種類、中に入れるものなどを様々に変えた条件で行う。ただし同じスキーマの中でのパラメーターの変更の多様さを目的としている。

・生態学的アプローチ

患者がさまざまな方法で運動課題を達成できるように可能な知覚の探索の方法を助ける、つまりは運動能力、知覚機能の正確性の減退などの条件の中で患者自身が使える知覚的手がかりを見つけて、その中の最良の解決法を発見することができるよう援助することである。

よって単に効率的な運動戦略を発達させることだけをするのではなく、グラスが滑りやすいか、どのくらい重いか、また中身がどのくらい入っているかという知覚的な手がかりを本人が確認できるように導かなければならない。




以上となります。理学療法士や作業療法士でも意外と運動学習については理解している人が少ないといった印象を持っています。
もう一歩理解を深めたい場合にはこの一冊が最適でしょう。
自分自身、特定の手技を学ぶよりはこういった話しを突き詰める方が好みに合っています。






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